初心者向け|看護研究の研究デザインの違いとは?量的研究の7つの型を図解で解説

目次

はじめに:あなたの研究、どのデザインに近いですか?

「研究デザインっていろいろあるけど、自分の研究はどれに当てはまるの?」
そんな悩み、ありませんか?
本記事では、看護研究でよく使われる研究デザインを図や事例でわかりやすく整理し、初心者でも「自分の研究の型」が見つけられるようサポートします。

【Q1】自分の研究は、どのデザインに近いですか?

下の中から一番近いものを選んでみてください:

  • RCT(ランダム化比較試験)
  • クロスオーバー比較試験
  • 前後比較試験
  • コホート研究
  • 横断的研究

「どれだろう…わからない」と感じたあなた。
それは決して“センスがない”わけではありません。大半の人が、ここでつまずいています。

【Q2】研究計画書に、これらの内容は書かれていますか?

観点
対象者誰を対象にする?(年齢、職種、条件など)
比較方法何と何を比べる?(介入あり/なしの比較?前後の比較?)
評価指標何をもって効果や変化を評価するのか(例:患者の待時間、スタッフの満足度、転倒率など)
データ取得の時期いつデータをとるのか(1時点?介入前?介入後?)
測定の方法どうやってとるのか?(アンケート、面接、観察など)

これらが曖昧なまま研究を進めると、「よく頑張ったけど、これって結局どんな研究だったの?」と聞かれて困ることになります。

研究デザインとは?看護研究に必要な“設計図”

研究デザインとは、「何をどうやって調べるか」にあたる、研究全体の基本設計図です。

たとえば、料理に例えるなら「ざっくりとした手順」のようなもの。
具体的には、研究目的に合わせて

  • どんな材料(対象者)を使うか?
  • どんな調理法(測定方法・介入)を行うか?
  • 出来上がりをどう評価するか?

といった要素を、あらかじめ設計することです。

論文を投稿するときにも「この研究はどのデザインで行われたか」を明記するのが一般的です。
これは、研究の信頼性や再現性を判断するうえで重要な情報だからです。

本記事では、研究初心者の方に向けて、「看護研究でよく使われる量的研究デザイン」をわかりやすく整理しました。ぜひ、自分の研究がどの型に近いかを確認するためにご活用ください。

量的研究とは?質的研究の違い

研究デザインの話をする前に、研究デザインと混同されやすい視点を2つ整理していきますね。
一つ目の視点は”量的研究と質的研究の違い”、二つ目の視点は研究タイプです。

まず、量的研究と質的研究の違いをみていきましょう。

量的研究とは?

  • データを数値で集めて、統計的に分析する方法。
  • 結果が比較的わかりやすく、現場で活用しやすい。
  • 横断研究、コホート研究、ランダム化比較試験(RCT)、非ランダム化比較試験(クロスオーバー比較試験や前後比較試験)が含まれます

例:転倒予防プログラムの前後で、転倒件数に差があるかを比較する。

質的研究とは?

  • 人の体験や考えを深く掘り下げて理解する方法。
  • インタビューや観察を通じて得た言葉を分析する。

例:転倒した高齢者が、転倒後にどんな思いや行動の変化があったかをインタビューで探る。

両方を使う混合研究法もある

  • アンケートで数値をとる(量的)+インタビューで理由を聞く(質的)
  • インタビュー内容をもとにアンケート項目を作る(質的)+多人数に調査する(質的)

といった方法があり、これを「混合研究方法(Mixed Methods)」といいます。


研究タイプ× 研究デザインの関係

研究デザインと混同されやすい視点2つ目が研究タイプです。

研究によって目指したいものに応じて、大きく4つのタイプがあります(3つに分けている文献もあります)。
そして研究タイプに応じて、適切な研究デザインが大体決まってきます。

研究タイプ目指したいもの主な研究デザイン
因子探索研究現象を構成する因子を明らかにしたい、現象を取り巻く因子を明らかにしたいとき
例:
「せん妄を引き起こすカルテには無い背景因子は何か?」
→高齢者のせん妄についての看護師へのインタビュー結果から要因をまとめる
質的研究(インタビュー・観察など)
関係探索研究因子間の関連の有無や強さ・方向を数量的に明らかにしたいとき
例:
「睡眠障害とせん妄の発症に相関はあるか?」
→ 睡眠の質をスコア化し、せん妄発症との相関係数を算出する。
横断研究、コホート研究
関連検証研究特定の因子とアウトカムとの関連を明らかにしたいとき
例:
「入院時の認知機能低下は、せん妄発症と関連しているか?」
→ 入院時のMMSEスコアと、入院中のせん妄発症率を比較する。
横断研究、コホート研究
因果仮説検証研究仮説を設定し、介入などを通じて因果関係を明らかにしたいとき
例:
「入院中の環境調整(照明と睡眠導入ルーチン)が、せん妄の発症を予防するか?」
→ 一部の病棟で環境調整を行い、前後でせん妄発症率を比較
RCT、クロスオーバー比較、前後比較試験
※ 小林美亜(編)『看護研究』医学書院,2023年より内容を一部改変

研究タイプはそれ自体では研究全体の基本設計が見えないので、研究デザインとは異なります。
研究タイプは基本設計というより、研究自体が目指すフェーズがどこにあるかを示すものになります。

よく使われる量的研究デザインの特徴まとめ

ここからが本題です。
本章では、量的研究デザインのうち、臨床・実践の現場でよく使われる介入研究と観察研究を紹介します。
(介入研究と観察研究以外にも、研究室などで実施されるものには実験研究やレビュー研究などがありますが、臨床ではあまり見かけないので割愛しますね。)
「介入のあり/なし」、「ランダム化のあり/なし」、「比較対象のあり/なし」などによって研究デザインが決まってきます。

※ 小林美亜(編)『看護研究』医学書院,2023年より内容を一部改変

RCT(ランダム化比較試験)

  • 特徴:ランダムにグループを分け、片方に介入を実施し、効果を比較。
  • 信頼性が高いが、実施ハードルも高い。

クロスオーバー比較試験

  • 特徴:同じ対象者が異なる介入を時期を分けて受ける。
  • 個人差の影響を抑えやすいが、順番効果に注意。
  • ケアの効果が可逆的であることが条件。

前後比較試験

  • 特徴:介入前と後の変化を同じ対象者内で比較。
  • 実施期間が短く手軽で実施しやすいが、時間の経過など(スタッフの経験値が変わる、患者層が季節で変わるなど)の他の要因の影響を受けやすい。

前向きコホート研究

  • 特徴:ある条件の有無でグループを分けて、将来の結果を観察。
  • RCTと違い、積極的な介入(治療・ケアなど)は行わず、自然な経過を観察する
  • 実践に近いが、交絡因子の影響に注意。

後ろ向きコホート研究

  • 特徴:ある曝露(治療・ケアなど)の有無でグループを分けて、過去の記録から結果を比較する
  • すでに存在するカルテや記録を用いてデータを収集するため、短期間・低コストで実施可能
  • 記録の欠損や質のばらつき(情報バイアス)に特に注意が必要

症例対象研究

  • 特徴:ある結果(病気・副作用など)の有無でグループを分けて、過去の曝露状況を比較する
  • RCTやコホート研究と違い、結果(アウトカム)から出発して原因をさかのぼる研究デザイン
  • 実践現場の観察をもとに、リスク要因や原因を探索するのに適している

横断的研究

  • 特徴:ある時点の状態を調査し、群間の差を比較。
  • 関連性の把握に適しているが、因果関係は言えない。

研究デザインは「理想」だけでなく「現実」も見て選ぶ

ここまで、研究の目的に応じたデザインの選び方をお伝えしてきましたが、実際にはリソース(人手・時間・予算)の制約も無視できません。

看護現場でよくある制約

  • 人手が足りない:協力者が少ない/対象者が集まらない
  • 時間が限られている:夜勤の合間や業務のスキマでの活動
  • 予算がつかない:高額なツールや外部委託が難しい

たとえばこんな判断が必要です

制約選びやすいデザイン例理由
少人数で実施したい前後比較試験/クロスオーバー比較同一対象内で比較でき、サンプル数を抑えやすい
短期間で終わらせたい横断研究1時点のデータだけで済む
データはすでにある後ろ向きコホート研究/症例対象研究過去のカルテ・記録を活用できる
比較対象を設定できない実態調査/記述的研究「ありのままを記述する」デザインにする

理想と現実のバランスをとる

研究は「こうしたい」という理想だけでなく、「これならできる」という現実とのすり合わせが重要です。
限られたリソースの中でも、目的に合った適切な方法を選ぶことで、有意義な研究に仕上げることは十分可能です。

研究デザインと計画に盛り込むべき要素

デザインを選ぶときは、研究デザインの名称と共に「設計の中身」が重要です。
量的研究の場合、以下のような項目を明確にしておくことで、研究の信頼性も高まります。

項目考えるべきこと
研究の目的・意義誰にどんな良いことをもたらすのか。そのためにこの研究で明らかにするものは何か。
研究デザインRCT?コホート?クロスオーバー?横断的研究?
対象者誰を対象にする?(年齢、職種、疾患、条件など)
比較対象何と何を比較する?(介入あり/なし、介入前/後、暴露あり/なし など)
評価指標効果を測るのは何?(点数、行動変化、満足度など)
データ取得の時期いつのデータを取る?(介入前/後、過去のデータから?)
測定の方法何で測る?(スケール、質問紙、バイタル、インタビューなど)
研究場所と期間どこで、どれくらいの期間で調査する?

これらが明確になれば、研究計画書もスムーズに書けるようになります。

まとめ


「どのデザインにすればいいか分からない」という状態は不安ですが、 設計図が描ければ研究は一気に進めやすくなります。

今回の記事をもとに、ぜひ一度「自分の研究の型はこれかも?」と、 言語化してみてください。


参考文献

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この記事を書いた人

看護学博士。臨床経験5年、研究歴10年以上。
現在は看護師さんの看護研究を支援する「Medi.Ns.Lab.」を運営し、初心者の方にもわかりやすいサポートを心がけています。

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